呼吸困難

病気は多いですが、前向きに生きていきます。目下の課題は重症喘息のコントロールです。

患者さんの「ありがとう」

呼吸困難になり、根本的な治療目的の入院から12日が経った。
その間同部屋だった、2人の70代の方が退院され、新たに1人入って、今3人部屋である。


私は喋るとお腹から声を出してしまい、大きくなる。そして疲弊する。
11月18日、叔母と電話で20分会話したあと、大きな発作を起こした。
以後、なるべく喋らないよう、カーテンを閉め切り、部屋の人たちとは会話をしていない。


隣のベッドのNさんは、81歳。私が入院した日に既に彼女はいた。
この方、無口ではないが、とにかく相手の話を聞くのが上手だし、悪口を決して言わない。
先に退院されたお二方は、申し訳ないが悪口が多い。
看護師、介護福祉士、医師、理学療法士、作業療法士、事務…
なぜこんなに悪口ばかり言いたいのか、わからない。


悪口の内容は、ケア中心だが、医師の学歴、果ては体型までバカにする。
今はテレビでも「ぽっちゃり系」すら言わなくなったのに、昭和脳のままだ。
私は太っているから、姿を見せたくなかった。
なのでシャワーに入る時は18時の夕食を5分で平らげ、18時5分には浴室へ行く。
他の人が食べ終わる頃ベッドに戻り、カーテンを閉め切る。
向かいのMさんが退院する時、さすがに挨拶したが「初めてお姿を見た」と言われた。


悪口の詳細は書かない。同罪になるような気がする。
そういった話を「そうですか、そうですか」と聞くのがNさん。
相手の言葉を遮らない。だが、なんとなく相手が同調して欲しい言葉を発する時には
「そうなんですねぇ」と言う。
故に嫌われない。


私は寝言を言う。入院初日、カーテン越しに
「あのう、私寝言言います。すみません」
と言った。皆さんそれは「大丈夫」と言ってくれた。


斜め向かいのYさんは、言ってはなんだが相当わがままだった。
朝9時に介護福祉士が入浴の迎えに来ると、早すぎる、遅すぎると、5分刻みで言う。
介護さんは黙っていた。部屋中の人も黙っている。
その方の性格は一生直らない。言えば喧嘩になる。


私のベッドの向いの方が退院したら、YさんはNさんに話しかけるようになった。
やっぱり「そうですか、そうですか」と聞く。
「悪口大好きYさん」が退院した後、Tさんが入院した。
Tさんとは初めの挨拶をした。
柔和な印象だった。
だがTさん、悪口こそ言わないが、とにかく喋る。
ターゲットをNさんに定め、3時間ほども立板に水のように途切れず話す。
Nさんは「そうなんですね、大変でしたね、すごいですね」と言葉を織り交ぜる。


その「おしゃべりTさん」も早々に退院。
静かになった。


ある日の早朝、私はトンチンカンな夢を見た。
その時大声を出して、自分の声で目覚め「やってしまった…」と青ざめた。
Nさんとお向かいの方に、
「すみません…寝言で大声を出してしまいました」
と謝罪した。
Nさんは
「そんなに大きな声ではなかったよ、ヘリコプターの夢を見たの?壮大な夢ですね」
と笑ってくれた。


Nさんは歩けるが、歩行が不安定で、ナースコールをして車椅子介助を頼まなければならない。
ちょっと歩いて病室から顔を出すと、スタッフに注意される。
じゃあナースコールをしたら良いかというと、中には黙って部屋に入ってくるスタッフがいる。
トイレが終わると部屋に連れられて戻ってくる。Nさんは
「ありがとうございました。すみません、どうもどうも」
と言う。
スタッフは黙って去る。
私はそういうことがあるたびに、イライラしていた。


洗面所には棒の先に鈴がついたものが置いてある。
ナースコールの代わりだ。
Nさんがナースコールをして
「口をすすぎたいです」
と言った。スタッフは車椅子介助をして、Nさんと洗面所へ行った。
洗面所は部屋の隣。スタッフが
「Nさん、私奥の部屋で食事介助するから、鈴鳴らされても聞こえないから」
と言った。じゃあどうすれば良い?「歩くな」と言っておいて、迎えに来ない?
腹が立っていたら、Nさん車椅子に乗ったまま、足を動かして半分歩く形で戻ってきた。


看護師は朝、前日の便と尿の回数を聞く。
私は
「尿が13回、便2回」
と答えた。
Nさんは
「おしっこ6回、通じが1回」
と言った。私の半分の排尿回数だ。
彼女は一度膀胱炎になり高熱を出している。それで随分水分を勧められる。
だが水分を摂れば、排尿回数は増えるに決まっている。
患者さんが遠慮しながらナースコールを押し、スタッフが「どしたのー」と部屋に入ってくる。
「すみません、おしっこ…すみません」
優しいスタッフなら「じゃあ行きましょう」となる。


私も老人病院で働いていたから、スタッフの気持ちはわかる。
人手が足りない中、バタバタ動き回っている。
けれど患者さんに気を使わせ、謝らせ、感謝される状況。


Nさんにカーテン越しに「あれはないですね」と言ってみた。Nさんは
「皆んな辞めて、今は特に人手不足らしいの」
と言った。
なので直接師長に言わない。言えばNさんのことだとバレる。迷惑をかけたくない。


Nさんの爪の垢を煎じて飲んでから、投書箱にクレーム入れて、退院しようと思う。

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